劇台本『注文の多い料理店 〜山猫軒へようこそ?〜』(約20分/15人)
登場人物(15人)
- ナレーター1
- ナレーター2
- 紳士A(猟装の青年。自信家)
- 紳士B(猟装の青年。調子者)
- 猟犬A(元気)
- 猟犬B(勇敢)
- 山猫の料理長(ボス)
- 山猫の給仕長(ていねい口調)
- 山猫のコック1
- 山猫のコック2
- 山猫のコック3
- 札の声1(看板・掲示の“声”)
- 札の声2
- 札の声3
- 森の精(風の化身/環境音の呼びかけ)
兼任例:舞台裏の効果音(風・鳥・ドア)は「森の精」「札の声」担当が追加で実施可。
小道具・装置
- 扉に見立てたパネル3枚(入口・中間・最終)
- 「看板/張り紙」ボード(大:店名/小:指示文)※文字は大きく
- 帽子・マント(紳士用。脱ぎやすい)/ストール(安全に“脱ぐ”表現)
- 空のびん(「ヘアクリーム」「バター」「香水」風のラベル)※中身は入れない
- 塩に見える紙吹雪 or 白紙ふぶき(肌に乗せない演出に)
- 犬の耳カチューシャ・しっぽ(安全に)
- 山猫たちの耳・エプロン・コック帽
- ほうき・布(清掃や撤収の所作に)
第1幕「森で迷子、看板が呼ぶ」(約6〜7分)
[チャプター1:森の入口]
(森の音。舞台に緑系の明かり。森の精が風の所作)
ナレーター1
「ここは深い森。道は細く、風はすこし冷たい。」
ナレーター2
「二人の紳士が、猟にやってきました。」
(紳士A・B入場。猟犬A・Bは少し先行)
紳士A
「山鳥がいないな。森の奥へ行こう。」
紳士B
「だいじょうぶさ。ぼくたち都会の紳士だよ?(胸を張る)」
猟犬A
「ワン!(先を指す)」
猟犬B
「ワンワン!(奥へ)」
森の精(風の所作)
「(ささやく)足もとに気をつけて……。」
ナレーター1
「やがて足音は、ふいに止まりました。」
(犬の気配が消える。短い静寂)
紳士B
「……あれ? 犬たちの声がしない。」
紳士A
「大丈夫だ。ほら、あれを見て!」
[チャプター2:不思議な看板]
(看板を掲げるスタッフ登場。「西洋料理店 山猫軒」)
札の声1(看板を高らかに)
「ようこそ。『西洋料理店 山猫軒』へ。」
紳士A
「レストラン? 森の中に? いいじゃないか。」
紳士B
「ちょうどお腹がすいたところ!」
ナレーター2
「二人は扉を開けました。中からは、いい匂い……のような、少し奇妙な匂い……。」
(軽い手拍子の導入の歌(全員):二拍×4小節)
「♪トントン ドンドン 戸をたたく
おなかはグーグー 森のまんなか
ようこそ不思議な 山猫軒
お約束は あとでね」
(暗転→第2幕)
第2幕「注文の多い店内」(約7分)
[チャプター3:最初の部屋]
(明転。白い壁パネル。張り紙が多い)
札の声2(張り紙1)
「お客様へ。本店は『注文の多い料理店』です。まず身だしなみを整えましょう。」
紳士B
「注文が多いのは、良いサービスってことだね!」
紳士A
「紳士たるもの身だしなみは完璧に。(帽子をとる所作)」
札の声3(張り紙2)
「帽子と上着はお脱ぎください。ほこりは料理の大敵です。」
(※安全のため、帽子とストールを外してハンガーへ)
ナレーター1
「二人は言われるまま。なんだか、少しひんやり。」
森の精
「(そよ風の所作)ひとつ、ふたつ、命のあたたかさ。」
[チャプター4:次の部屋へ]
(扉パネルを移動。張り紙が増える)
札の声1(張り紙3)
「くつをきれいに。ピカピカだと、お料理も微笑みます。」
(“磨くふり”でOK)
札の声2(張り紙4)
「ヘアクリームをよく塗り、髪を整えてください。」
(空のびんで「塗るふり」。観客に見える大きい所作でコミカルに)
紳士B
「ぼく、テカテカになってきたよ。」
紳士A
「サービスが行き届いている証拠さ。」
ナレーター2
「そして、いよいよ“お料理らしい注文”が……。」
[チャプター5:本当に多い注文]
札の声3(張り紙5)
「顔と手をよく洗い、香水をたっぷり。」
(空のスプレーを“プシュッ”。紳士らがむせてコミカル)
札の声1(張り紙6)
「体に塩をよくまぶし、バターを薄くぬり……。」
(※白紙ふぶきで“塩”の見立て、衣服の外側に振るだけ。バターは“ぬるマネ”のみ)
紳士B(ハッとする)
「……ねえ、A。なんだかおかしくない?」
紳士A(笑い飛ばす)
「気のせいさ。グルメには下ごしらえが必要なんだろう。」
森の精(低く)
「(ささやく)ほんとうの“注文”は、だれのため?」
(奥から山猫の給仕長・コック1〜3が影のシルエットで登場。無言の合図)
ナレーター1
「背筋に冷たいものが走ります。」
札の声2(張り紙7)
「最後の部屋では、静かに立ってお待ちください。すぐ“いただきます”。」
紳士B
「“いただきます”って……ぼくらが?」
(鼓の小さな一打→暗転)
第3幕「ほんとうの客はだれ?」(約6〜7分)
[チャプター6:山猫の厨房]
(不穏なBGM。赤〜紫の照明。最奥の扉が開く)
山猫の料理長(ゆっくり登場)
「ご来店、まことにありがとうございます。
本日のおすすめは……“よく手入れされたお二人”。」
紳士A(青ざめる)
「や、やっぱり……ぼくらが“食べられる”のか!」
山猫の給仕長(礼儀正しく)
「当店は“注文の多い料理店”。お客様にお願いを重ね、いちばんおいしい状態で……。」
コック1・2・3(そろって)
「仕上げます。」
ナレーター2
「ふたりは、やっと気づきました。」
紳士B
「ぼくたち……むやみに偉そうだった。森のルールも礼も、忘れてた。」
紳士A
「助けて……!」
[チャプター7:救出と学び]
(遠くで犬の鳴き声。「ワン!」「ワンワン!」)
猟犬A
「ワン!(駆け込む)」
猟犬B
「ワンワン!(山猫たちに吠える。※追いかける“所作”のみ)」
山猫の料理長
「うむ、犬は苦手だ。撤収だ、撤収!」
山猫の給仕長/コックたち
「(あわてて退場。張り紙をあたふた片付け、カーテンに消える)」
(森の精がほうき・布で“スッ”と風を送り、看板が倒れる演出)
ナレーター1
「たくさんの注文は、煙のように消えました。」
紳士A
「犬たち、ありがとう……。」
紳士B
「ぼくら、森と命に“礼”を言うのを忘れてた。」
森の精
「(やわらかく)気づけばいい。次は、忘れないで。」
(短いフィナーレ合唱(全員))
「♪ありがとう 森の道
風の声に 耳をすます
いただきますは いのちへ礼
心をそろえ 帰ろうよ」
ナレーター2
「こうして二人は、森の外れへ戻っていきました。」
ナレーター1
「“いただきます”は、食べる側の合言葉。
たくさんのいのちへ、ありがとう。」
(全員で礼。幕)
上演・演出メモ(先生向け)
思い込み・慢心への気づき。
時間調整
第1幕:導入の手拍子歌を1〜2コーラス追加可。
第2幕:張り紙の“注文”を1〜2つ増減して調整(例:「手袋を外す」「ポケットの中身を棚へ」など、安全な外す所作のみ)。
第3幕:救出場面は“所作で勢い”を見せ、危険な走り・接触はNG。
安全・表現
「塩」「バター」はふり・見立てだけ。肌に触れない。
“脱ぐ”は帽子・ストール・マントのみ。衣服は脱がない。
追いかけっこは歩幅小さく・ステップで。
美術・音
看板や張り紙は文字大きく。客席にも読ませて“笑い”を取る。
効果音:風(シェーカー)・戸の開閉(木片)・犬(コール&レスポンス)。
学びの柱
礼節(身だしなみは“だれのため?”)。
「いただきます」の意味(命への感謝)。
コメント